韓国で死者95人を出した『加湿器殺菌剤事件』

原因は加湿器用の殺菌剤だった。

何故これほどまでに被害が拡大してしまったのか?

7月20日放送の日本テレビ系列「ザ!世界仰天ニュース」で放送された内容をまとめてみました。

事件の概要

2016年、韓国のニュースに衝撃が走った。

加湿器用の殺菌剤により、多数の死傷者が出たのだ。

政府が認定した被害者は221人。

死者は95人にも上るという。

(環境保健市民センターの集計では死者701人ともいわれている)

 

この殺菌剤には、「人体に安全な成分」「殺菌99.9%」「子どもに安心」などと書かれていたのだが、次々と子ども達が亡くなってしまったという。

人体に有害な物質が入っているのを企業がしっかり調査せずに販売。

安全を無視した人災的事件であり、この事件は「家の中のセウォル号事件」と呼ばれた。

 

一体なぜこのような事件が起きてしまったのか?

そこにはズサンな企業体質が隠されていたのだ。

事件のはじまり

韓国の冬は寒く湿度も低いため、ほとんどの家ではオンドルという床暖房を設備している。

そのため家の中は特に乾燥気味になり、加湿器を使用する家が多いのだという。

加湿器は一般的に超音波式スチーム式に別れる。

 

スチーム式は水を沸騰させ蒸気を出して殺菌できるのだが、超音波式は水を霧状で出すだけなので菌をそのまま放出してしまうというのだ。

韓国では価格が安く加湿効果が高い超音波式の方が人気があった。

加湿器

新聞の広告には、「加湿器は1日で100倍以上に殺菌が増殖。それを防ぐには加湿器の殺菌剤がいい」などと載っており、水の中に適量入れるだけで子どもの健康が守れるということで、加湿器の殺菌剤は非常に人気があった。

 

しかしこの殺菌剤が後に子ども達に恐ろしい病を引き起こす事となる。

それは改質性肺炎だ。

間質性肺炎とは?

改質性肺炎とは、肺胞の周りの間質が炎症を起こし、やがて線維化して固くなってしまう病気だ。

通常肺胞では酸素と二酸化炭素の交換を行うが、肺胞壁が固くなると肺胞が広がらなくなり、酸素と二酸化炭素の交換ができなくなってしまうため、呼吸困難となってしまうのだ。

一度線維化した肺胞は元には戻らず、原因不明の間質性肺炎の場合、5年生存率は30%しかないという。

本来間質性肺炎は高齢者に多いとされ、幼児の発症はほぼいないとされている。

事件の解明まで

ある韓国の病院で改質性肺炎の幼児が相次いでいた。

 

その病院では2007年までの数年間で改質性肺炎の幼児の数は15人でうち7人が死亡していた。

さらに20ヶ所以上の病院を調べたところ、2008年~2009年までの間に質性肺炎の幼児の数は78人、うち36人が死亡していたのだ。

 

改質性肺炎を患う幼児が増えた事に疑問を抱いた医師が、患者のデータを集め国に全国的な調査を依頼した。

だが国は、新型のウイルス感染の疑いなしとして調査に動いてくれなかった。

 

それから数年後、医師は原因を突き止めるため患者から損傷した肺の組織を採取、どの患者も気管支周辺に炎症があることが判明した。

何かを吸い込んだのが原因だと分かったが、しかし何を吸い込んだのかまでは特定できなかった。

それから更に月日が流れる。

 

今度は妊婦の改質性肺炎の患者が増える。

その中には数年前、同じ病気で娘を亡くした母親も含まれていた。

稀な病気が同じ一家の中で掛かっている事に気づいた医師は、感染場所は家庭内だという仮説を立てる。

 

そして2011年4月。

ようやく国が原因究明に動きだした。

全国の患者の家を調査。

各家庭に共通する物を探した結果、ようやく加湿器の殺菌剤にたどり着く。

その殺菌剤に含まれていた原因物質とは、PHMG(ポリヘキサメチレングアニジン)だった。

PHMG(ポリヘキサメチレングアニジン)とは

PHMGは農薬や工場の消毒剤として使用される物質で、殺菌効果が非常に強い。

皮膚に触れても大丈夫だが、体内に入る(吸入する)と肺の細胞を破壊し害を及ぼすのだという。

その為、噴霧は禁止されているのだが加湿器用製品に入れられ被害が拡大した。

 

そのような危険な物質が、何故殺菌剤に使われたのだろう?

そこには、信じられない企業体質があったのだ。

オキシー・レキットベンキーザーのずさんな体質と韓国政府の遅れた対応

1995年、オキシー・レキットベンキーザー社は加湿器用の殺菌剤を開発する。

しかしこの時はまだ、問題のPHMGは入っていなかった。

 

しかし2000年、オキシー社の加湿器用殺菌剤に浮遊物が発生するというクレームが入る。

それを受けたオキシー社は新たな成分を開発。

しかしそんな時、PHMGの販売元のSKケミカル社の仲介会社であるCDIが、オキシー社にPHMGの売り込みにいったのだ。

オキシー社はPHMGを使用する事を決定。

下請け会社のハンビット科学に製造を依頼した。

そしてオキシー社は、水に溶けやすく殺菌効果が高いPHMGを使った殺菌剤の販売をはじめた。

韓国政府の審査基準

もともとPHMGはカーペットなどの抗菌剤として国への申請が行われ、認可がおりていた。

カーペットなどの抗菌剤としてであれば、皮膚の毒性実験をすればいいし、実際PHMGは肌に触れても害がないのだ。

当時の韓国の法律では審査に一度合格すると、用途を変えても再審査を受ける義務がなかった。

そのためなんのハードルもなく、PHMGは加湿器用殺菌剤として転用されてしまったのだ。

回収までの道のり

人体に安全の文字。

水の中に殺菌剤を適量入れるだけでバイ菌から守れる。

そのためオキシー社の加湿器用殺菌剤は大ヒットした。

そしてそれを真似るように他社もPHMG入の殺菌剤を販売。

2000年~2011年までの間に、毒入りの殺菌剤は800万個以上売れたという。

2011年8月31日、ようやく謎の改質性肺炎の原因が加湿器用殺菌剤と判明。

しかし詳しい成分まではわからなかったため、販売や使用の自制を勧告するにとどまった。

国がPHMGの吸入実験を行うと、肺に同じような影響がでたため2011年11月11日にようやく回収命令を発動した。

被害者たちは国に賠償請求を訴えたが、国側に責任がないと主張。

他の企業も責任のたらいまわしをはじめた。

各企業の言い分

SKケミカルは当然その危険性を知っていたはずにも関わらず「仲介業者を挟んでいるのでオキシー社の殺菌剤にPHMGが使用されているとは知らなかった」と主張。

オキシー社は「PHMGが危険物質だと販売元から聞いていない」と主張。

国も企業も一切非を認めなかった。

企業に対する処罰

一番売上が多かったオキシー社は独自に吸入毒性検査を行った。

その結果、「独自に吸入毒性検査を行ったが、製品の成分が原因とは言えない。黄砂やカビが原因の可能性もある」と反論。

しかし、後にこの検査内容がとんでもないものだったと判明し、安全と虚偽の報告をしたとして処罰される。

しかしその処罰はとんでもなく軽いのだった。

(オキシー 約500万円 他企業 約10万~警告)

 

被害者団体によると死者の数は701人にも上り、その膨大な手術費や治療費はほとんどが自己負担なのだという。

 

さらに2016年5月5日、オキシー社の毒性検査で大学教授が検証結果を捏造。

実はこの大学教授はオキシー社に研究費の名目で約2300万円(+口止め料)で買収されており、企業に不利なデータを削除していたというのだ。

これによりオキシー社の元代表と幹部が業務上過失致死及び表示告知の公正化に関する違反で逮捕された。

 

販売禁止から5年、ようやくオキシー社が謝罪をする事となった。

 

現在検察は業務上過失致死及び証拠隠滅に関して捜査している。

しかし今年7月現在、公判の日程は未定のままだという。

 

加湿器用殺菌剤が販売禁止になった今、子どもたちの謎の間質性肺炎の患者は0人となった。

オキシー社は番組の取材申し込みに対して責任を認め、

 

補償案や再発防止対策などが非常に遅れてしまったことに対して責任を認め、今後このような事故が再発しないよう可能な限り全ての措置をとる予定でおります。

そして加湿器用殺菌剤により被害を受けた方々を支援するため100億ウォン(現時点で約9億円)規模の人道的基金も用意しております。

 

と返答した。

そして韓国政府も被害者に賠償金を支払うと発表した。

患者に幼児や妊婦が多かった理由

ちなみに患者に幼児や妊婦が多かった理由は、幼児や妊婦は在宅時間が長く、吸引量が多かったためだではないかといわれている。

また幼児は免疫力が弱く、体型における肺の表面積が大きいため、影響がすぐにあらわれたと考えられる。

日本は大丈夫なのか?

ちなみに日本ではPHMGを含む加湿器用殺菌剤の流通は確認されていない。

一部家庭用製品にPHMGを使用しているが、皮膚についたり誤って飲み込んだりしても、代謝・分解され、人体に影響はないのだという。

 

この番組をみた感想

テレビでは被害に遭われたイさん一家が出ていたのだが、イさんは子どものために良かれと思って殺菌剤を購入し、結果長女のイェヨンちゃんがわずか2歳10ヶ月で死亡。

妻のヘヨンさんは肺移植をし、いまでも重い後遺症に悩まされている。

ヘヨンさんは未だに娘の墓参りも行けておらず、

「私も娘と同じ病気になって初めてこんなに呼吸ができない辛さを知りました。なんでもっと早く気付いてあげられなかったのか、それがとても辛いです」

と語った。

 

今回のこの事件は、オキシー社のずさんな管理体制と韓国政府の対応の遅さが問題視されている。

セウォル号事件の時も運行会社の不適切な船体の改造や船員の過失さらに、国の検査制度などの安全管理に疑問が出ていた。

人体に影響があるとわかっていながら売り続けた企業や、遅い対応により被害を拡大させた政府。

韓国では未だに同じことが繰り返されている。

 

それにしてもイさん家族。

子を亡くしただけも辛いのに、子どもによかれと思ってやった事がこんな結果になってしまい、母親であるヘヨンさんの気持ちを考えるといたたまれない。

今現在遺族や被害者の方には賠償金などが支払われておらず、心身ともにつらい思いをされている事と思だろう。

一日でも早く解決し、二度とこのような痛ましい事件が起きない事を願う。